ワイルド・スワン

               ◇悲しみと忍耐の果てに何があるのか。
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ワイルド・スワン_c0180341_21293913.jpgワイルド・スワンは、文庫本3冊、1000ページを超える大作である。
そこには、激動の時代に生き、運命の打撃に翻弄されながらも、耐え抜いた一家の顔と声とが収められている。
講談社文庫には、家族や当時の写真が33枚入っている。下写真は、著者の家族写真である。
右の女性が、ワイルド・スワンの著者、ユン・チアン女史である。
物語は、日本が支配する満州国の祖母の人生から始まる。上巻前半部には、日本人の蛮行が鮮烈に書かれている。
庶民が見た満州国の実態に、涙もろい私は泣かされ通しであった。
支配するものと、支配されるものとが、立場を入れ替えながら、奪い、奪われ、殺し、殺される。日本人にも悪人がいたし、中国人にも悪人がいた。
読んで、一人の人間として怒りがこみ上げてきた。日本に対し、一部の中国の人々が拳を振り上げ、過去の戦争行為を非難するのは当然だと思った。
時代が移り、満州にソ連軍が進行、日本に原爆が投下された。やがて、ロシア兵の略奪行為が始まり、日本人の惨殺が行われる。やがて、その動乱は、野火のごとく全土を覆い、国民党と共産党との激烈な内戦へと突入していく。
この暗黒の時代に、著者の母となる夏徳鴻(シヤ・トーホン)は共産党員になった。夏徳鴻は言っている。「死を覚悟した。偉大な目標のために命を捧げることを誇りに思った」と。
当時、「米10kgで娘を売る」というほどの貧困の時代である。
資本主義と、共産主義とが激突する中で、夏徳鴻は命を賭けて国民党と戦った。そこで、夫となる張守愚(チアン・シオウェイ)と巡り逢う。
長征の旅を生き抜き、やがて中華人民共和国が樹立される。毛沢東は叫んだ。「中国の人民がついに立ち上がった」と。
しかし、新しい国家の誕生は、さらなる試練の始まりでもあった。
父は高級幹部になった。この両親の元に5人の子供が生まれた。著者は第二子である。父(以下、張と呼ぶ)には、「全ての人々は、同一の基準で公平に扱われるべき」との信念があった。しかし、建国直後から腐敗の予兆が見え始める。汚職や浪費、さらには官僚主義からの圧政を嘆く張の姿が痛々しく描かれる。
ある日、毛沢東から、「新生中国は行動も思想も一枚岩でなければならない」との指針が打ち出される。やがて、国家行動に批判的な人間たちが、投獄、あるいは、思想改造と称し、僻地の開拓農場へと転居させられることになる。
飢饉や天災によって、食べるものすら欠く時期もあった。さらに、毛主席の言葉を盲信し、矛盾に満ちた「命令」や「決まりごと」を平然と実行する国家へと移り変わっていく。
張は危機感をもち、党上層部に告発の手紙を書き、議会で反対意見を述べるようになる。
上層部批判は、一家を滅亡させる危険をはらんでいる。
しかし、張は、周囲の悲惨を見殺しにはできなかった。人民に対する深い愛情が原因して、やがて、張は逮捕、投獄されることになる。張は一時、狂人となって出獄。家族は、その父と共に地獄の生活を強いられることになる。
一家は「思想改造」で四川省の辺境に転居される。人間が食べていく限界の荒野での労働。水汲みにすら30分もかかる僻地であった。その中で、祖母が死に、父も死んでいく。
ワイルド・スワンのあらすじは以上である。
これだけを見るなら、ただ悲惨な物語である。けれど、この物語は崇高な精神の光彩に満ちているのだ。次回は、この一家のダイヤモンドのような人生を語ってみたいと思います。
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by sokanomori | 2010-10-31 00:03 | 良書のご案内 | Trackback | Comments(4)
Commented by 大河 at 2010-10-31 11:56 x
中国といえば

「宋家の三姉妹」を、映画化されたものをビデオで
見たことがあります。

孔子の末裔である大富豪の妻となった長女・靄齢

孫文の妻になった次女・慶齢
(先生のスピーチの中にも出てきたことがありますが)

蒋介石の妻になった三女・美齢

周恩来も、少しだけ登場してましたが、

激動の時代を一生懸命生きた人々、
しかし、制度を変えても真の幸福は建設できないということを知っている
私達の使命はいよいよ大きいですね。
Commented by at 2010-10-31 18:25 x
菊川さん。こんばんは。

ワイルドスワン。
菊川さんの記事を読んでいたら興味が出てきたので
きょう Amazonで頼みました。
届くのが楽しみです。

菊川さんは、42歳で 読まれたとか。

ぼくは 43歳で読みます。

あっ!あと ご報告します。
鯖さんの板でも書いたんですが
本日、菊を お届けに行って来ました。
詳細は 鯖さんの板に書いてあります。
Commented by sokanomori at 2010-10-31 21:58
大河さん、こんばんわ。
国民党として、台湾に逃れた人々の人生もありましたね。^^
どこに行こうと、苦労も悲しみもあったことでしょう。
国も個人も、どれも大事。
政治だけでも駄目だし、個人だけでも駄目。
善い政治を作り、善い人間になるしかない。
永遠の旅を私たちは続けるのでしょうか。^^
★菊川広幸
Commented by sokanomori at 2010-10-31 22:01
蓮さん、こんばんわ。
奇遇ですね。同じ年齢で読むなんて。^^
今回、感想文を書くのに、主要な箇所を読みましたが、名作というのは年齢を重なるごとに味わいが深くなるものです。
どうぞ、じっくりワイルド・スワン、お読みになってください。
きっと、精神の大きな栄養になることでしょう。^^

菊のこと、鯖板で拝見しました。
大作ですね!^^
現物、見に行きたいと思います。
★菊川広幸


創価学会員としての日常生活を語ります。^^


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